ケアプラン作成で迷わない「本人の希望」と現実のすり合わせ方法とは
2026.01.26
ケアマネジャー
「理想」と「現実」の間に立つケアマネの葛藤
ケアマネジメントの現場では、「本人の希望」と「現実的な条件」が一致しない場面が数多くあります。
「一人で暮らしたい」「家で最期まで過ごしたい」「まだ施設には入りたくない」――
本人の思いを尊重したい一方で、身体機能の低下や家族の負担、サービス体制の限界など、現実がそれを難しくしていることもあります。
ケアマネジャーは、その板挟みのなかで「本人らしい生活をどう実現するか」という調整役を担います。
これは制度やマニュアルだけでは導けない、まさに“人の想い”と向き合う仕事です。
この記事では、ケアプラン作成時に直面する「希望と現実のギャップ」をいかに整理し、納得感のある支援方針へ導くかについて、具体的な視点と対話の工夫を紹介します。
本人の希望を正確に聴き取ることから始まる
「希望」を言葉どおりに受け取らない
面談の場で「まだ自分でできるから介護はいらない」と言われても、その裏にはさまざまな感情が隠れていることがあります。
「介護を受ける=弱くなったと思われたくない」「家族に迷惑をかけたくない」といった心理的抵抗が“拒否”という形で表れるケースもあります。
ケアマネがまず意識すべきは、“言葉そのもの”よりも“その背景”を理解することです。
希望を事実として捉えるのではなく、「なぜそう思うのか」「どんな意味を持つのか」という文脈を探る姿勢が重要です。
共感と傾聴を重ねて「本当の希望」を見つける
本人の感情を受け止める過程で、本音が少しずつ表れてきます。
「実は一人暮らしが寂しいけど、自分の自由を失いたくない」
「施設は嫌だけど、家で家族に迷惑をかけるのもつらい」
このように希望の根底には、「孤独」「不安」「誇り」などの感情が存在します。
ケアマネはその感情を丁寧に可視化し、「どんな支援なら安心できるか」を一緒に考える――そこから現実とのすり合わせが始まります。
現実を見据えるための情報整理
医療・介護の専門的な視点から評価する
希望を尊重しつつも、健康状態や身体・精神機能、リスク要因を正確に把握しなければなりません。
多職種との連携(訪問看護・主治医・リハビリ職など)を通じて、日常生活動作や疾患の進行、今後の見通しを共有します。
「本人が一人でトイレに行きたい」と希望しても、転倒リスクが高ければそのまま受け入れることは危険です。
医療的リスクを踏まえた上で、環境整備や支援機器の導入によって「安全に一人でトイレに行ける方法」を一緒に探る――そんな“折り合い”をつけていくことが求められます。
家族・環境・地域資源とのバランス
本人の希望を現実化するには、家族や周囲の支援体制を踏まえた環境調整も不可欠です。
家族が働きながら介護をしている場合、希望を叶えるための時間的余裕があるのか、介護ストレスが蓄積していないかなどを確認します。
また、地域のサービスやインフォーマル支援(ボランティア・民生委員など)の利用によって、希望を支える新たな選択肢を広げることも可能です。
「現実」とは制限のことではなく、「活かせる資源」として再定義していく視点が重要です。
希望と現実をつなぐ「合意形成」のプロセス
一方的な説得ではなく「共同決定」の姿勢で
ケアマネが現実的な提案をする際に陥りやすいのが、“正論による説得”です。
「危ないから施設に入りましょう」「家族の負担を考えましょう」という言葉は、正しいように見えても、本人にとっては“選択を奪われた感覚”を残します。
そこで求められるのが、「共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)」の考え方です。
本人・家族・専門職が同じテーブルで情報を共有し、それぞれの視点から納得できる形を一緒に導くプロセスです。
「危険だからできません」ではなく、「安全に続けるためにどんな工夫ができるか」を一緒に考える――
これが希望と現実をすり合わせるための対話の基本です。
「できない」を「どうすればできるか」に変える
「外出したいけど心配」「料理がしたいけど包丁は危険」――
制限が必要な場面でも、全面的な禁止ではなく、「条件付きで実現する」方法を見つけることが大切です。
例として、
・転倒防止マットや手すりを設置して外出をサポートする
・危険物は家族が準備し、本人は盛り付けのみ担当する
・デイサービスで調理プログラムを利用する
といった“代替案”を提示することで、「やめる」ではなく「形を変えて続ける」支援が可能になります。
対話を深めるための質問の工夫
本人の価値観を引き出す質問
・「これからの生活で、どんなことを大切にしたいですか?」
・「もし今より体の調子が変わったとき、どんな暮らし方を望みますか?」
・「ご家族や周りの方に、どんなふうに見てもらいたいですか?」
これらは、本人の意思決定を支える“価値観の確認”に役立つ質問です。
目の前の課題だけでなく、人生の方向性そのものを共有する手がかりになります。
家族の本音を聴き出す質問
・「今の介護で一番つらい場面はどんなときですか?」
・「ご本人の希望を聞いたとき、どんな気持ちでしたか?」
・「無理なく続けるために、どんな形なら助かりますか?」
家族にもまた、葛藤や罪悪感があります。
本音を聴くことで、本人・家族双方の妥協点が見え、支援方針により現実性が増します。
専門職間の情報共有を促す質問
・「医療的には、何を一番避けるべきですか?」
・「この生活環境で最も気をつけたいリスクは何ですか?」
・「本人が今できることを維持するために、他職種でサポートできる部分はありますか?」
ケアマネがこうした質問を通じて場を整えることで、チーム全体の方向性が一致しやすくなります。
対立を防ぐ「伝え方」の配慮
否定から始めない
希望と現実の調整では、時にリスク説明をしなければならない場面もあります。
しかし、「それは危険です」「できません」と最初に否定してしまうと、話し合いの扉が閉じてしまいます。
「理解できる部分」と「懸念点」を分けて話すことで、対話は続けやすくなります。
「そのお気持ちはよくわかります。安全に続けるためには少し工夫が必要かもしれませんね」
といった表現は、本人の気持ちを尊重しつつ現実を伝える中立的な言い回しです。
可視化と共有による納得支援
言葉だけで説明しても、本人や家族には伝わりにくい場合があります。
写真・図・生活動線表やリスクマップを活用することで、「どこに課題があり、どうすれば改善できるか」を視覚的に共有できます。
“可視化”は説得ではなく、“理解のきっかけ”を生む手段です。
ケアプランに反映する際のポイント
本人の希望を中心に位置づける
ケアプランの第一表には、「本人の望む生活の実現」に焦点を当てた記述を盛り込むことが基本です。
たとえ現時点でその希望を完全に叶えられなくても、「尊重している」姿勢を明文化することが大切です。
たとえば、
本人は「できる限り自宅で家事を続けたい」と希望している。転倒リスクの低減を図りながら、介助や福祉用具の導入により可能な範囲で自立を支える。
このように段階的な実現方法を明記することで、希望と現実のバランスが伝わります。
モニタリングで「納得を更新」する
希望と現実は、時間の経過とともに変化します。
状態の悪化や家族の変化により、以前の計画が合わなくなることもあります。
モニタリング時に「今の支援はご本人の希望に合っていますか?」と定期的に問い直すことで、本人・家族の“納得感”を保ち続けることができます。
すり合わせを「我慢」ではなく「共創」に変える
「本人の希望」と「現実」のすり合わせを、「どちらかが妥協する関係」と捉えるのではなく、
「新しい生活の形を共に作るプロセス」と考えることが、ケアマネジメントの理想です。
そのためには、対話によって「できない理由」ではなく「できる形」を一緒に考えるマインドが求められます。
本人にとって“叶えられなかった希望”ではなく、“納得して選べた希望”を支援することが、本当の意味での自立支援につながるのです。
寄り添いながら、現実を希望に変える
ケアマネジャーの仕事は、「希望を否定する人」でも「現実を押しつける人」でもありません。
本人の思いを受け止めながら、現実の中で一番その人らしく生きられる選択肢を一緒に探る“橋渡し役”です。
希望と現実の間にある違いは、対立ではなく「対話の始まり」です。
誠実な傾聴、冷静な分析、そして感情に寄り添う姿勢――この三つがあれば、どんなギャップも“納得のすり合わせ”に変えることができます。